『シンクロニシティーン』相対性理論

あからさまなまでの「悪意」を感じさせるほど、本作は作為的なライティングが施されている。その「悪意」の矛先は、自身らを祭り上げ、やくしまるえつこをアイコンに仕立て上げたメディアや世間であり、同時にやくしまるえつこ本人に向けられたものに他ならない。

やくしまるえつこのボーカリゼーションはこれまでに無いほど澄み切って美しく、『ハイファイ新書』の頃よりも圧倒的に大人びた感触を与える。そんな彼女の歌声を際立たせるかのようにボーカルを前面に押し出し、トラック自体のボリュームが絞られている。

その裏には、「お前ら、この声が聞きたいんだろ!!」的なスタンスすら感じさせる意図的なポーズを邪推してしまい、同時にそれを「悪意」と呼びたくなるのも当然だろう。
だって、「ペペロンチーノ・キャンディ」ってなんだよ!!っつー話でしょ。

また一方で、本作ではギターの永井聖一が作った楽曲が4曲(M-3,5,8,11)含まれている。M-3“人工衛星”は『シフォン主義』に含まれていそうな疾走感のあるラフな楽曲であり、M-8“三千万年”は隙の多いポップソングに留まっているため、昨今の真部脩一の楽曲と比較すると若干引けを取る感は否めない。「やくしまるえつこを一番上手く使えるのは俺だ」と主張する真部の声が聞こえてきそうである。

しかし、チャイナ風のイントロで始まるミディアムポップチューンM-5“(恋は) 百年戦争”は心地好く耳に馴染み、星空の下で流れる子守唄のように穏やかなM-11“ムーンライト銀河”の美しい旋律とアレンジは、優しく聴き手を世界の中へと引き込んでいく力を感じさせる。そういった点で、メロウなサイケデリアを取り込んだ楽曲においては永井聖一に一部の利を感じられるのも確かだろう。

そういった諸々の感傷を思いつつも、やはり相対性理論の楽曲構成力、およびその土台を形作る真部脩一のソング・ライティングの力量には恐れ入る。M-1“シンデレラ”では渋谷慶一郎の影響も垣間見せるプログラミングを見せ、進化の一端を見せつける。また続くM-2“ミス・パラレルワールド”やM-7“マイハートハードピンチ”といった楽曲における、言葉の選び方やキャッチーなメロディラインは、比類無いオリジナリティを見せつける。昨今、ここまであからさまに言葉の韻を踏みながら歌詞を紡ぐアーティストというのも珍しいなぁ、と感心もする。

全体的には前作『ハイファイ新書』ほどのインパクトがあるわけではないが、良質な楽曲が並び、相対性理論が決してやくしまるえつこのバンドではなく、なおかつハイプでもないということを証明する作品となっていることが確かである。今後の彼らの進化にも期待を抱かずにはいられない。素晴らしい。

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『シンクロニシティーン』相対性理論
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