『静かな爆弾』吉田修一

前作『悪人』が好評を得た吉田修一の新刊。執筆期間はちょうど『悪人』連載時期と重なっていた模様です。前作同様、社会問題を取り上げた作品ともなっており、近年の指向の変化が見て取れる本作。

基本的には恋愛モノ。吉田修一の恋愛モノには駄作が多いと個人的に思っているのだが、本作はようやくアタリを得たという感じ。非常に面白かったです。

その要因となっているのは、やはり身近な出来事と遠くの出来事との対比なのだと思う。タリバンによる仏像爆破事件の背景を探る、というストーリーと、聾唖の女性との恋愛の展開という二つの物語が互いに交差しあい、巧みな心理描写と状況描写によって一つの軸を構築していく構成力はなかなか読みがいがあって面白い。

ただし、これが吉田修一の目指すところとしての完成形かと問われれば、それは否定せざるをえないのではないだろうか。やはり、二つの物語から一つの核心を導くにあたって、まだツメの甘さが残っているように感じられる。至極曖昧さを残したままの結び目が毛玉のようにごちゃごちゃとしたものになっているのは意図的なものなのか、それとも致し方無しの結果だったのか。

まぁいずれにせよ、とても面白い作品には仕上がっていると思う。以前からの彼の魅力であった心理描写や状況描写の力はさらに増し、同時に彼の弱点であったストーリー性の欠如いう課題も大きく改善され、作家としての成長を明示している。

『7月24日通り』や『東京湾景』なんかより断然面白い。

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